菓子教室経営・説田(せつだ)幸子さん(50) 〔プロフィール〕1964年9月、宮城県女川町出身。石巻市在住。石巻市立町の「復興ふれあい商店街」で洋菓子販売店「Chez Setta(シェ・セッタ)」を経営。店内や依頼先で菓子教室を開催している。 石巻地区復興応援隊・戸田香代子さん(52) 〔プロフィール〕1962年10月生まれ、多賀城市出身。石巻市在住。2011年8月からNPO法人石巻復興石巻復興支援ネットワークワークスタッフ。2013年5月から石巻地区復興応援隊としても活動。 好きなことや特技を活かし
住民が輝く街に 普通の市民や再建した商店主、だれもが『達人』に ─どのような活動をなさっているのでしょうか。 戸田さん 「石巻復興支援ネットワークが主催する『石巻に恋しちゃった♡(略称・石恋)』の運営事務局を担っています。石恋は、さまざまな特技や趣味を持つ地域の『達人』に先生になってもらい、ユニークな体験プログラムを提供する企画。2013年2月、達人24人による第1回を皮切りに、2014年7月までに5回実施しました。現在では達人は80人を超え、毎回の石恋を盛り上げてくれています」 説田さん 「2014年10月、復興ふれあい商店街の中で、手作りの焼き菓子やケーキを販売する店を始めました。店内や出張先では、お菓子教室を開いています。現在の仕事をするようになったきっかけが石恋です」 ─どんな経緯だったのでしょうか。 説田さん 「元々、お菓子づくりは趣味でした。お店を持つなんて考えたこともなかったのですが、友人の戸田さんから第1回の石恋の達人役を頼まれ、ケーキづくりをしたんです。完成して、参加した子どもたちが喜ぶ姿を見たら私も嬉しくなって。それ以来、毎回の石恋に達人として参加しました。続けるうちに、もっとお菓子づくりをしてみたい人がいると気付き、『じゃあ、自分でやってみようかな』と思うようになりました」 戸田さん 「震災後、『説田さんがお店を開いてくれたらいいな』と、本人に向かって何度も話していたんです。お菓子づくりがとても上手なことを知っていたし、石巻には気軽にお菓子づくりを体験できるような場所や機会がなかったので。そして、『あんなものを作って、こんなものも作って』と、震災後初めて夢を語れたのが説田さんでした。自宅に帰ると現実が待っているのですが、夢を話しているときは前向きになれました。本当に開業すると聞いたときは心配で、『大丈夫なの!?収入どうするの!?』と、聞いてしまいました(笑)」 説田さん 「震災後、私も『何かをしたい。しなくちゃいけない」という気持ちでした。何かをする人が増えれば、街が元気になると思って。失敗してもいい。やりたいことはやっておこうと。なかなか出歩くことのない年配の方が勇気を出して参加してくれたりして、嬉しいですね」 戸田さん 「石恋がきっかけを提供したことで、説田さんはお店を開きました。ほかにも、70歳で東京に通いながら絵手紙の講師の資格を取った方や、自分で楽器制作のワークショップを始めた達人もいます」 街の面白さ、「初めて知った」 ─戸田さんが石恋の活動を始めたきっかけは何だったのですか。 戸田さん 「友人からの誘いで、『午前中気晴らしにバイトしない?』と声をかけられ、石巻復興支援ネットワークの活動に携わるようになりました。仕事だと思うと、心が凛とすることができたんです。そのうち石巻復興支援ネットワークが石恋の企画をスタートさせることになり、担当になりました。最初は企画のイメージすらつかめず(笑)。友人や知人に手当たり次第、達人役をお願いしました。説田さんのお菓子が大好きでしたし、石巻にはお菓子は教室なかったから、参加がたったの4名といわれても開催をお願いしました(笑)」 説田さん 「私も最初は、頼まれたからやるか…ぐらいの気持ちでした(笑)」 戸田さん 「開催してみたら、『なんて面白いんだろう』と。石巻の地理や歴史に詳しい達人がいるのですが、その方の案内で石巻を歩くというツアーをしました。参加者が達人を囲んで熱心に質問したり、達人が丁寧に答えたり。参加者からは「楽しかったありがとう」「海の近くにやっと来れた」「何も考えずに夢中になれた」と喜んでもらえましたし、達人からは「こんなにありがとうと言ってもらえるなんて考えてなかった(涙)」との声をいただきました。 こんな素敵なことはないと思い、感激で泣きそうになりました。 実は、石巻のことがあまり好きじゃなかったんです。結婚して30年間住んできた街ですが、興味を持っていなかったんですね。それが、素晴らしい達人と出会い、歴史、文化に触れて、もっと石巻を知りたい、ここって面白い、に変わりました。」 ─戸田さんを含め、応援隊によってもたらされる影響は。ご意見やご期待を聞かせてください。 説田さん 「発想がユニークで、明るい応援隊ばかりです。石恋は達人も参加者も増えて継続されているところが素晴らしいですね。地道な活動が重なり、良い形で広がっていると思います。あえて言うなら、女性が元気で男性が少ない(笑)。男性の達人が増えると面白いかもしれませんね」 「一歩踏み出す」人を応援 ─石巻の現状は。どんな街にしたいですか。 戸田さん 「震災から4年近くが経ち、新しく家を建てたり、仕事を始めたりする人も増えてきました。一方で、『この4年間、何をしてきたんだろう』と落ち込む人もいる。仮設を出てからも、毎日元の仮設を訪ねて話をしていく人もいます。新たなコミュニティーづくりがうまくいくかどうか心配です。 復興とは、震災以前よりも暮らしやすい、もっと好きになれる地域をみんなで作っていくことだと思います。達人といっても、ちょっと得意なことがある、というレベルでいいんです。そういった方々が一歩踏み出し、新たなコミュニティーで『それなら私も』と達人が増え、人が輝く街を作っていきたいです」 ─今後の目標を聞かせてください。 戸田さん 「一番の課題は活動の継続です。現在は応援隊の活動資金がありますが、終了後にどうするか大きな問題です。仲間や応援してくれる方々と一緒に、今後の在り方を考えるミーティングを開いています。有料のツアーを開催したり、ノウハウを移転したり、試せることはなんでも試して、石恋を続けていきたいと思っています。一歩踏み出した人を応援することや子どもや若者を巻き込んでいくことにも取り組んでいきます」 (以上) 2014年12月取材